アクティブラーニングを考える

~授業実践や雑感など(亀倉正彦)~

水野正朗著「学びが深まるアクティブラーニングの授業展開--拡散/収束/深化を意識して」を読んで(1巻3章)

東信堂「アクティブ・ラーニングシリーズ」(溝上慎一総監修  2016年3月刊)
第1巻『アクティブラーニングの技法・授業デザイン』(安永悟・関田一彦・水野正朗編)
第3章「学びが深まるアクティブラーニングの授業展開--拡散/収束/深化を意識して」(水野正朗・名古屋市立桜台高等学校)を読んで
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シリーズが全巻刊行されました。拙著は第7巻『失敗事例から学ぶ大学でのアクティブラーニング』ですが、私自身が経験したり見聞きしたり する事例や理論的知識には限りがあることから、シリーズ各巻からの学びを通じてさらに進化・深化させて参りたいと思い、ここに時々記します。ただ、書評な どおこがましいですので、あくまでも「第7巻とのつながりを考える」ことを主眼としたいと思います。
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◆節構成
 第1節 グループは目的でなく手段 / 第2節 事例分析-源氏物語速読課題における協同的問題解決方略 / 第3節 教材の本質を貫く「柱となる」学習課題 / 第4節 「生きた知識」と「死んだ知識」 / 第5節 学習課題における共同性の原理 / 第6節 知的学習のサイクル構造と学習の転移、です。学びと気づきを2つに絞りまして以下に記します。

◆(1)共同性の原理
 本章は、アクティブラーニングの視点に立った学習方法の一つとなっている「グループ」「協同学習の技法」を用いて「学習課題(思考課題)」(p.58)および「個人思考と集団思考の組み合わせ」(p.45,58)の相互関連的な発展(p.58)を考えることがアクティブラーニング型授業の骨格を決める重要ポイントであることを述べています。まずは前者の「柱となる問い」「深い問い」といった「中心課題(学習目標)」(p.60)を適切に設定することが大切だと述べます。高校「理科総合B」の授業を一例にして「陸上生物の多様化」をテーマにしたグループ作業課題を当初立案のものから抜本的に見直した結果、「授業が成功した」ことが示されました(pp.52-55)。この成功の背後には学習課題の設定原理としての「共同性の原理(拡散/収束/深化)」(p.58-60)が存在しており、先の作業課題もこれに非常に密接に関連した課題に改善されたことが成功要因であると分析していました。
 第7巻では、第3章(1節(2)&(3), 4節(1))でアクティブラーニングの技法を導入する際、そのAL実施目的と科目の学習目的を整合させることの重要性について、失敗事例と関連させながら論じました。とくに知識習得・知識活用・キャリアの分類は、本章の拡散/収束/深化と密接に関係しています。また第2章(4節(3))では、学生の思考・討議のプロセスが上手く進まないことの積極的な側面について述べました。但し、無計画に試行錯誤するのでなく、本章で述べられた「共同性の原理」を考慮に入れて仮説検証的に進めることが大切です。

◆(2)知的学習サイクル
 では、なぜグループ学習をすることが学習効果につながるのでしょうか。後者の「個人と集団」による「対話に基づく知的な学習」(p.60)のメカニズムについて「ネットワーク構造」(p.62)に関する概念を援用して明らかにしているのが本章後半の特徴であり、大変に意義深いと思われました。先に述べた「共同性の原理」に基づく課題設定に加え、4つのフェーズからなる「知的学習サイクル(=知識構築のサイクル構造モデル)」(pp.60-62)が機能することで「学習の転移」が促され、協同的な学びが実現します。これは一方的な講義よりも、グループワークの方が転移が可能な「生きた知識」(pp.55-58)になるからです。このようにして「単元レベルでの構造化」を目指した内容になっています。
 第7章では、第1章(3節(1))学んだ知識の「学習の転移」がもたらされない、すなわち応用が利かない失敗事例について「訓練された無能」として紹介しました。また第1章(2節(4))では、拡散や深化を狙ったグループワークで予想される「意図せざる結果」や「創発性」を切り捨てるのでなく、これらを大切に育てるだけの教員側の度量の大きさが必要になりますが、この面での失敗事例やマインドセットについて言及しました。また知的学習サイクルの各フェーズについて、第3章(2節)では協同学習を成立させる上での重要要素「個人予習」について、第6章などで「グループワーク」について、そして第3章(3節)では「振り返り」について、それぞれ論じているのでご参照ください。

 

 以上です。分かりにくい点は、直接本書に当たってくださいませ。またご不明な点はお尋ねくださいませ。

「 アクティブラーニング・シリーズ」と拙著をどうぞよろしくお願いいたします。

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